オンラインも対面も——今後の就労支援のあり方

コロナ対策だけにとどまらず、利用者の選択肢を増やす

コロナ禍のなか、これまで「対面」があたりまえだった就労支援の現場においても、支援継続のため、オンラインの活用が世界各国で開始されました。日本におけるオンライン支援の推進には、政府の施策が大きな役割を果たしました。

2020年10月14日、厚生労働省より都道府県労働局に宛てた事務連絡「地域若者サポートステーションにおけるオンラインを活用した支援の積極実施について」が発出されました。ここには、オンラインの就労支援を、対面支援の「代替手法」ではなく、「地域若者サポートステーション(以下、サポステ)利用者の個別ニーズに対応するための支援手法の一つ」とあります。これによって、サポステでは、対面支援か、オンライン支援か、利用者が選べるようになりました。

この事務連絡の背景にある、厚生労働省の考えや思い、そして今後の展望について、厚生労働省 人材開発統括官 若年者・キャリア形成支援担当参事官室 若者自立支援係長 桒原優一氏に伺いました。

インタビュアーは、サポステの運営を受託し、また日本マイクロソフト株式会社のGlobal Skills Initiative(さまざまな領域のNPO等と連携し、ITを活用した就労支援を推進するプロジェクト)*運営事務局も担う、認定NPO法人育て上げネット*理事長の 工藤啓氏が務めました。

オンライン支援について語り合う、厚生労働省 桒原氏(左)と 育て上げネット 工藤氏(右)

新型コロナによって、これまでの支援を途切れさせてはいけない

どうすれば支援を継続できるか答えは「オンライン支援の推進」だった

2020年4月、緊急事態宣言が発出され、全国のサポステで対面による支援が困難となるなか、どのようにして支援を継続するのかが大きな課題となりました。

「利用者や支援者の健康・安全を前提に支援を継続するためには、オンラインの活用が必要不可欠だった」と、桒原氏は言います。

新型コロナウイルスによって、これまで全国のサポステが続けてきた支援が途切れてしまってはいけないという強い思いが、オンライン支援の推進を後押ししました。

「利用者に寄り添う」からはじまったサポステのオンライン支援

国がはじめて、サポステでのオンラインを活用した就労支援を認めたのは3年前のことでした。 工藤氏が当時を振り返ります。

「対面を前提にしてきた就労支援において、オンラインを活用した支援が可能になったことは、画期的だったと思います。遠方に住む利用者の交通費の問題、また、対人関係が苦手な利用者への配慮など、より若者に寄り添うことができるようになりました」。

当時、サポステでの就労相談は、2回に1回までオンライン実施をしてもよいという決まりでしたが、コロナ禍ではこの制限が取り払われました。また、相談だけではなく、サポステの利用登録から就職までがオンラインで完結できるようになりました。

この見直しには、育て上げネットの事例もヒントになりました。育て上げネットのオンラインプログラムでは、一度も対面で相談することなく(利用者は一度もスタッフとリアルに会わずに)、テレワークを前提とした企業に就職した利用者が複数存在したのです。

利用の選択肢が増えることは利用しやすくなるということ

この見直しは一時的なものではありません。アフターコロナでもオンライン支援推進の継続が期待されます。

桒原氏は、サポステ利用者にとって選択肢が増えることの大切さを強調します。「来所が必須であれば、特に遠方にお住まいの利用者などにとっては負担になり、支援者側にとっては支援の機会が減ることになる。就労希望者の個別ニーズに対応する支援手法を用意するために、対面もオンラインもどちらも実施できる環境を整えたい」。

その言葉には、就労支援への強い意志が感じられました。

全国のサポステ8割がオンライン試行メリットの一方で課題も見えてきた

サポステにおいて利用登録から就職までをオンラインで完結できるようになってから、「サポステの8割がオンラインを経由した支援を試みた」というアンケート結果を、桒原氏は紹介してくれました。

オンライン支援を活用した支援者からは、「これまでサポステに来られなかった方々にアプローチできた」「交通費が負担になっていた方々の相談回数を増やせた」など、ポジティブな回答が寄せられました。

一方、オンライン支援に関するノウハウを十分に持ち合わせていない支援者からは、「どのようにスキルアップすればよいのか」という戸惑いの声も上がりました。

これらアンケート結果から、「サポステの中には、オンライン支援を実施できていないところもあるのが実状。全国のサポステにおけるオンライン支援の水準が高まるよう支援していきたい」と、桒原氏は今後の展望を語ってくれました。

オンラインでの支援ノウハウを共有して支援者を育成することが必要

育て上げネットでは、対人支援に携わる援助職に向けて、2020年5月から3回にわたり、オンライン支援経験共有ウェビナー(Microsoft Teamsライブイベントにて実施)を行いました。

当初は、参加者30名程度を想定していたにもかかわらず、約100名が出席。これまでにはない形で、距離的な制限を乗り越え、ITを活用して利用者へアプローチするためのノウハウが共有されました。

工藤氏は、このウェビナーを通じて、全国の支援者ネットワークにアプローチでき、利用者への支援拡充につながる期待を持てたと感じています。

日本マイクロソフト株式会社と連携して推進しているGlobal Skills Initiativeのコンテンツは、NPOの伴走を通じて受益者がオンラインで自学自習し、自らのキャリア形成のため、ITスキルを高めていくものです。

こうしたプロジェクトに必要な、オンライン支援ができる支援者の育成は、コロナ禍のなか、仕事に困難を抱えている多くの方々に新しいスキル形成・就労の可能性を開いていくものになることでしょう。

これまで、対面を前提に理論と実践が築き上げられていた領域で、オンラインの活用を通じて、利用者の利便性向上と選択肢拡充の必要性を考える厚生労働省と支援者の取組みは、今の日本の若者就労支援を牽引する大きな力の一つとなっています。

初等・中等教育にて取り入れられたプログラミング教育に代表されるように、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる若い世代には、デジタルへの適応度が高いという特徴があります。若者就労支援においては、その可能性を伸ばせるような支援体制・支援スキルが、支援者に期待されるでしょう。若者就労支援の一端を担う、サポステにおいてもオンライン支援の水準の引き上げが今後目指されます。

*Global Skills Initiative
●マイクロソフトの全世界的な取り組みの一つで、新型コロナウィルスの影響により就労・雇用に影響を受けた方達のスキルアップと雇用可能性の拡大のために、日本マイクロソフト株式会社が様々な領域のNPO等と連携して展開する就労支援プロジェクトです。Global Skills Initiativeでは、支援者をサポートするオンライン就労支援のコンテンツや、キャリアコンサルタントの方々のスキルアップ機会を無償提供しています。

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